午前七時。最後の朝食、最後の談笑を楽しむ。相変わらずくだらなく、とりとめのない話。表面では談笑に花を咲かせているように見える。でも、別れは近い、そう心のどこかでずっと考えている。
午前八時。ポーターがホステルに到着。お別れの時間だ。別れの花を耳にかけてもらい、乳白色に輝くストールが首に巻かれる。そして皆で写真撮影。皆との時間を少しでも引き延ばしたいと言わんばかりに、もう一枚、もう一枚とたくさん写真を撮る。
そして、旅立ちの時はきた。メンバー全員と力強い握手、抱擁を交わし、僕は歩きだした。目頭が熱くなる。さよならと別れを惜しむ声が背中からたくさん聞こえる。でも、僕は振り返らない。今ここで振り返ったら、きっと栓をしている熱いものがとめどなく溢れてしまうから。さようなら、と心で小さく呟いた。
僕は切り替えのはやいのが取り柄だ。少し歩くと、すでに次の物語、次のステップへと頭は切り替わる。まるで何かのスイッチをパチッと弾いたかのよう。
ポーター兼ガイドである彼は別れの時間にさきにジープステーションに向かってしまい、僕はさっそく、この迷路のような村を出ることすらできず迷子になる。とにかく道行く人に声をかける。「ナマステ。Where is the Jeep station?」皆親切に教えてくれるが人によって真逆を指差したりとまちまちで困り果てる。ふいに子どもたちの声が近づいてくる。「Origami!!」見覚えがあるなと男の子を見るのと、そう声をかけられるのがほとんど同時だった。折り紙教室で最後まで熱心に作り方を覚えようとしていたあの子だ。道に迷って困っているんだと話すとジープステーションにつづく一本道まで案内してくれた。本当に助かった。ありがとう少年よ。ただ1つだけ、僕の名前は折り紙ではない。
そして一本道を駆け降りていく。今日は仲間の歩調に合わせる必要もなく、また「ポーターに追い付かなければ」という大義名分もある。僕は大好きな下りを夢中で駆けた。次から次へとどこに足をつく?と判断が迫ってくる。途中いくらかの登山客の「あいつイカれてるぜ。」などという言葉を小耳にはさんだが、クレイジーでけっこう。僕は今降りることが最高に楽しいのだ。逆にガンドロック方向に向かう村人に黒くてでかいリュックを背負った男を見たかと問うと20分くらい前に通ったと聞いた。ジープステーションまであと3分というところでポーターに追い付く。一安心だ。それからは疲れた足を休めるようにポーターとゆっくり歩く。
そして、ジープステーションに到着。少し待って、ポーターに別れを告げ、ジープに乗り込む。今回は11人。いつも通りのぎゅうぎゅう詰めだ。いつもと違うのは、あまりの揺れにゲロを吐いてしまったときのためのエチケット袋の配布サービスが加わったことと、隣にアラビア系の男性と白人女性のカップルが座っていること。話してみると、白人女性はベラルーシからきたドニャという女性で、アラビア系の彼はビンラディンという名で、ドニャは数年前に日本を旅したと言った。スマホには東大寺のストラップが。大阪、奈良、京都、東京、それから富士山にも登ったらしい。大阪が一番好きという彼女に大阪産まれの僕はついつい嬉しくなってしまう。しばらくすると眠気が。爆音で鳴り響く音楽と恐ろしい揺れをもろともせずに居眠りができるようになった自分が恐ろしい。
乗車から三時間くらいたっただろうか、ポカラに到着。ジープの運転手のラミスとフェイスブックを交換して別れ、ホテルへ。以前訪れたときとまったく同じ部屋に案内される。荷物を置いたあとはすぐに昼食にでかける。前から気になっていた本場顔負けと名高い中華料理店へ。ぎっしりと中国語と英語でかかれたメニューがざっと10ページほど。迷いに迷い、けっきょく餃子、チャーハン、カツレツを注文。なぜか「本当にいいのか?」と確認されたがてきとうに流し、しばらくすると料理が。日本のそれの2.5倍くらいの巨大なサイズに絶句。彼の言葉の意味をやっと理解した。美味しいが食べても食べても終わりが見えない。けっきょくどれひとつと食べきらぬまま店を出た。そのあとはしばし清掃活動に勤しむ。途中から雨が降ってきたので、中断し、自分へのお土産探しにお土産屋を回る。基本的に商品に値段はなく交渉次第だ。気に入った腕輪を3つまとめて買うことに決めた。当初の店主の言い値は1つ550Rs(1Rs=約1円)。いくつかの店を回ったがこんなに高い言い値は初めてだ。それが面白く、ここの店で値引き交渉しようと決めた。彼が3つで1650Rsと言い終わる前に、「いいや3つで600Rsだ」と被せる。他の店では1つ250Rsだったからそれより安くしないならいらないとてきとうに嘘をつき、強気で攻める。「分かった。700Rsで手を打とう」と店主。一瞬にして値段は半額以下に。しかし僕は譲らない。「聞こえなかったか?600Rsじゃなきゃいらないって。」と畳み掛ける。すると「他をあたりな。」とあちらも攻勢に。「OK。じゃあな。」と店を出ようとすると、「分かったよ。600Rsで手を打つよ。」と彼。勝った。けっきょく1650Rsから600Rsに。「値引き交渉はできますか?」とご丁寧に聞いていた昔の自分が懐かしい。店主の様子からして、たぶん1つ150Rsくらいまでは頑張れただろうが、自分がほしい価格で購入できたから満足だ。当初苦痛だった値引き交渉も今じゃ楽しみの1つに。他の土産屋で子供たちの顔写真が載せられたトランプを購入。雨足が強くなってきたのでホテルに戻る。
夕食に行きたいレストランもあったが、下水道の整っていないポカラの道路はすでに水深10センチくらいの川となっている。諦めてホテルで夕食をとる。ふと、皆でわいわいと食べたガンドロックでの夕食、そしてそのあとのトランプを思い出す。ポカラのほうが食べ物の味は格段に上だが、一人での食事はやはり物足りない。
すると、リカードから「そっちはどうだ?楽しんでるか?」と連絡が。嬉しくて馴れない英語でのSNSにも夢中で取り組んだ。色々と話し込み、気づけばもう寝る時間も近づいてきた。おやすみを言って、温かいシャワーを浴び、Wi-Fiもサクサク動くので、YouTubeで1か月ぶりの日本のロックを楽しんだ。
そしてブログをかきはじめた。
明日はカトマンズへ移動。日本帰国ももう目の前だ。無事帰られるよう最後まで危を引き締めていこう。
それでは、また明日。
苦難を共に乗り越えた仲間は
返信削除生涯の親友になるね。
ほんとに貴重な経験だと思います。
日本では遭遇しない
苦境も乗り越え
楽しめるようになった
頼もしい朝陽の帰国を
楽しみにしています。