2016年9月1日木曜日

ネパール9日目

8/31
今日も朝から濃霧。そしてぼつぼつとふる雨。ネパールは雨季だが、このようなぐずぐずとした雨はほとんどなく、思い立ったように1~2時間スコールが降ることが多い。今日の午前は森にしかけた風景に馴染むようカモフラージュされた4つのカメラのデータの回収にむかった。雨が降ると蛭が活発になるため、入念に蛭対策を施し出発。野生の動物の姿を捉えるためにカメラは道なき道どころか、本当に道のない鬱蒼と茂る森の中に仕掛けられている。そのため回収は本当に骨の折れる作業で、GPSを頼りになんとか藪をかきわけて進んだ。四方八方から蛭が襲いかかってくきた。すべてのカメラのデータの回収が終わった頃には皆疲れはて、そして蛭に噛まれそこらじゅうから血がにじんでいた。特に昨日きたばかりのラファエルは蛭の恐ろしさを知らず、あまり対策をしてこなかったので少し言葉が悪いが、本当に足が血まみれだった。そして唯一、誰よりも蛭を恐れ、過剰とすら思われる対策を施した僕だけが無傷で帰還することができた。帰ってきた後はいくつ蛭に噛まれたかお互いに聞きあうことが定番となっており、僕はいつも少し自慢気にひとつも噛まれてないと答える。このように最近は英語が少しずつ理解でき会話ができるようになってきた。つまり語彙力や文法の使い方が身に付いてきたのではなく、聞き取れる20%くらいの言葉と表情、身ぶりから内容を理解することができるようになってきたのだ。メンバーとも積極的にコミュニケーションがとれるようになってきて毎日がすこしずつ楽しいものにかわってきている。
今日はお昼の調査のかわりに夜の調査があるのでお昼は洗濯物をすることにした。ここでの洗濯は本当に大変で、1日分の洗濯物を処理するのにだいたい45分くらいかかる。つまり三日も洗濯物をためると、二時間以上衣類を水で揉み続けることになり、もれなく腰を痛めることになる。なんとか2日分の洗濯物を洗い終わり、干そうと思ったが、すでに屋根のしたの干場は満杯。今にも泣き出しそうな空に不安を感じながらも、やむなく屋根のない干場に干すことにした。
洗濯物が片付くと一息つく間もなく、オリエンテーションに呼ばれた。ネパール、そしてアンナプルナの自然に関する20分程度のビデオを観賞した。もちろん英語なので僕にはまったく理解できなかったが。その後、村の博物館を見学して終了。帰る途中、村唯一のカフェにジェイクとフィルとラファエルで立ち寄ることになり、ティーブレイクを楽しんだ。店主がチョコレートケーキとポップコーンをサービスしてくれ皆上機嫌。主な話題は出身国の年齢制限に関してだった。つまり、何歳からお酒が飲めて、何歳から車の免許がとれるかとかそういう類いのだ。「お酒は二十歳からなのか。それじゃあおれが日本に行ったらたちまち逮捕されちまうな」とビールをあおぎながらラファエルが言ったことが印象に残っている。
そのあとは時期アメリカ大統領候補のトランプに関しての話題だった。この話は難解な単語ばかり僕にはあまり理解できず会話にも入れなかったが、やはりアメリカ人でない彼らにもアメリカの動向というものは重要らしく、改めてアメリカという国の影響力の強さを感じた。
すっかり夕方になったのでカフェを出た。帰り道の途中ポテトチップスを買ったのだが、恐ろしく値段が高かった。日本の二倍くらいだ。ぼったくられたのではないかと買った後メンバーに確認したが山奥の山村では品を仕入れることが難しいため仕方がないことらしい。今度ポカラに降りたときにスナック類を買いだめしようと決めた。
夕食を済ませた後、夜の調査に向かったのだが、開始直後に急に雨が降りだし、いきおいは弱まることなく、どしゃ降りに。僕は半ば諦めのような感情で、外に干した洗濯物のことを思い起こした。けっきょく雨でほとんどの生物は息を潜めてしまい、見つかったのはガマガエル4匹とクワガタのみ。次はもっとたくさん見つかるといいなと心で呟いた。
部屋に戻った後はフィルと少し身の上話のようなものをした。フィルは、イングランド出身で父は教師、母は歴史博物館で働いているらしく、教育熱心な家庭で育ったらしい。大学ではビジネスと環境問題について学び、先日大学を卒業し、ここに来たと言っていた。その後、僕の家族と日本の教育制度、つまり小学校が6年間あって中学校が3年間、高校が3年で、大学が4年という話をした。そしてそのことを踏まえて、自分の学校はこの枠組みから少し離れているという話をし、建築学科に所属していること、少子化が進む日本では建築業界の展望はあまりよいものではないという話をした。するとフィルは、イングランドも同じで少子化が進んでおり、国内では職を得るのが難しく、他の国に職を探しにでなければならないこと、他の国と言われたって自分にはそんなこと見当もつかないし、親と離ればなれになるのが辛いなど少し踏み込んだ悩みを話してくれた。
誰しもが心に悩み、葛藤を抱えており、現実とたたかっているのだ。それは世界のどこに行っても変わらない不変の事柄なのだと強く実感した。

楽しいこと、考えさせられること、苦労に疲労、さまざまなことが詰まった濃い1日だった。
週末は1泊2日のトレッキングにでかけるので、それまでしっかり健康を守らなければ。

それでは、また明日。

1 件のコメント:

  1. 松本君
    今回も短編小説を読ませてもらった気分になりました(笑
    意思の疎通が出来はじめると、ぐっと楽しくなるよね。
    普通に、藪に分け入ったり、蛭対策を完璧にしてみたり、
    この数日ですっかりたくましくなった感じがします。
    留学を終える頃には、新たな自分を発見しているかもしれません。

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